スタッフブログ
第148回芥川賞
- 2013年3月 7日 08:52
- M.N氏の岡目八目
「へやの中のへやのようなやわらかい檻(おり)とは何のことか
お分かりだろうか。答えは「蚊帳」。第148回芥川賞に決まった
黒田夏子さんの小説「abさんご」から引いた。75歳という
史上最年長での受賞が話題になったが、作品自体も
既成の価値観で固まっているこちらの頭を揺さぶった。
ひらがなを多用し、横書き。一つの文章が長く、正直読みづらい.
「小説」と書いたが「詩」と呼んだ方がふさわしいかもしれない。
作品から立ち上がるのは、濃密な「死」の気配だ。
全文が載った文芸春秋の3月号に、選考委員の作家小川洋子さんは
「この人は死者の国からやって来たに違いない」と書いていられる。
それでも、読後感は不思議と味わい深い。ひらがなを一つ一つ
目で追っていくと、言葉が持つ本来の意味を意識させられる。
一方で、少ない字数で瞬時に意味を伝えることができる漢字の
ありがたさを、あらためて思った。
定年後、小説を書き始める人が増えているという。自分を抑えて
働きづめに働いた後、自らを表現したいという思いが筆を執らせる
のだろう。人間や社会を見つめてきた人生のベテランたちが
思いがけない秀作を送り出すかもしれない。
小説だけではない。少子高齢化が進むなか、あらゆる局面で
高齢者の知恵と経験が求められよう。機械的に年齢で線を引き、
「ハイおしまい」という社会では味も素っ気もない。
「生きているうちに見つけてくださいまして、ほんとうに
ありがとうございました」。黒田さんの受賞の言葉である。すっきりした。
サラリーマン川柳
- 2013年3月 5日 11:19
- M.N氏の岡目八目
春闘が始まり、労働側は景気回復のための原動力として
賃上げを要求するのに対し、経営側は「実体が伴うのが先」
と慎重な姿勢を崩さない。物価が上昇して給料据え置き
では生活が苦しい。
労働者には、自由に使える小遣いにも影響するから
交渉の行方が気になる。
そんな給与所得者の哀歓を詠んだ恒例のサラリーマン川柳
(第一生命保険主催)の入選作100句が発表された。
あり得ないような内容でも、大いに笑ったり共感するのは、
世相を映し、職場や家庭の真実を鋭く突いているからだろう。
世代間のずれには特に職場で顕在化している。
新入社員だろう「軽く飲もう上司の誘い気が重い」。古参社員は
若者気質に手を焼く。「電話口『何様ですか?』と聞く新人」
「頼みごと早いな君はできません」。家に帰れば夫・父としての
権威低下に直面する。
「部下にオイ孫にホイホイ妻にハイ」「父の日は昔ネクタイ今エプロン」。
職場でも家庭でも孤立して、IT機器だけが心の頼り。
「人生にカーナビあれば楽なのに」「悩み事話すはコンシェルジュ」。
悩みは尽きない。
やぼを言えば、女性の就職率が向上し夫婦共働きが
増える中で、依然として男性視点の類型的な作品がほとんど
占めるのには違和感もある。逆に言うと、自虚ネタは、
まだまだ職場も家庭男性中心に動いている余裕の裏返し
かもしれない。少しはほっとしている。
五輪開催の意義
- 2013年2月26日 16:46
- M.N氏の岡目八目
2020年以降のオリンピックからレスリングがなくなるかもしれない。
国際オリンピック委員会(IOC)の理事会は五輪の「中核競技」から
レスリングを除外した。残った1枠を野球、ソフトボールなど7競技と
争うことになったというから、状況は厳しい。
五輪種目の入れ替えは、そう珍しいことではない。時代とともに
変化していくことは当然だが、紀元前から続く「人類最古のスポーツ」を
外す理由がよく分からない。IOCによると、世界的な普及度や
テレビ放送、スポンサー収入などを分析した結果という。
国際レスリング連盟の組織改革の遅れも指摘されているが、
あまりのも唐突すぎると思う。
五輪3連覇の吉田沙保里選手は「信じられない。悔しい」と
コメントしているが、当然だろう。五輪を目指す選手や子どもたちの
ショックは大きいと思う。「近代オリンピックの父」クーベルタンは
五輪開催の意義を、こう提唱している。「フェアプレーの精神をもって
理解しあうことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」と。
五輪の商業化がいわれて久しい。だから、テレビ映りがよく、
スポンサー収入も集めやすい競技を増すというのは安易すぎる。
変化を急ぐあまり、理念を忘れるようでは本末転倒だ。IOCは、
そのことを理解してもらいたい。
人生の密度
- 2013年2月21日 14:50
- M.N氏の岡目八目
黒いネクタイを締めるたびに、限りある人生を考えさせられる。
過日、友人の葬儀が営まれた。突然の死はいまだに信じられない。
いつも励まされ、何もお返しできなかったと悔やんでいる。
人生八十年と言われて久しいが、どこかで他人事と受け止めている。
欧米型の食生活にどっぷりつかり、車での移動に頼り切る彼には
高いハードルだったと映るからだ。やはり粗食に耐え、体を
動かしてきた先輩たちにはかなわない。永遠の別れを重ねて
深まっていく、人生のはかなさへの思いだ。ある食品工業の社長は
「百年カレンダーを」を使って社員に「はかなさ」を説いて
いられるそうだ。百年分の暦が並んだ大きな紙を前に「一枚の紙に
君も、私の命日も入る。われわれは一枚の紙に住んでいる仲間だ」
と語り掛ける。若い社員でもあっても、どこかに見えない命日が
潜んでいる。
そんな気付きは、一度限りのはかない人生だからこそ
どう生きるかにつながる。その上で「忘己利他」(もうこりた)の
大切さを説く。自分さえよければでなく、他人のために何かをする。
小さな実践でいい。その積み重ねが自分の幸せになっていくのだと。
友人の遺影を見つめ、日々の仕事に精いっぱい打ち込んだ姿が
浮かんできた。人生は長さでなく密度が大切。いつもの人懐こい
笑顔で論された気がした。
巨大隕石
- 2013年2月19日 08:56
- M.N氏の岡目八目
すざましい閃光(せんこう)だった。動画サイトを見て身震いした。
隕石(いんせき)が人類を襲う、映画の世界がロシアで現実になった。
願い事を託せる流れ星なら歓迎するが、宇宙からの贈り物
にしては物騒すぎる。
地球には幾千もの隕石が落下する。大半は人目に触れない場所に
落ちるらしい。大規模なものは、1908年にシベリア上空で大爆発した
隕石か彗星(すいせい)と見られる落下物が知られる。
今回はそれ以来の大きさだそうだ。広島型原爆20個分のエネルギーが
衝撃波として放出されたという。建物の損壊が激しく、負傷者は
1200人余に上る。死者の情報がないのは幸いだった。
古人にとって宇宙は神の領域だったらしい。隕石を天上からの
授かり物と考えていたのだろうか。霊験を信じ寺社にまつり、
碑を建てた。最古の記録は861年に落下した直方(のうがた)隕石
(福岡)だそうだ。国内最大の隕石は1850年の気仙隕石(岩手)で
135キロあったという。『歴史を揺るがした星星』恒星社厚生閣)参照
人類は長く宇宙に飛び出す術(すべ)を知らなかった。
月に降り立ち半世紀足らずだ。宇宙科学は急速に進歩しているが、
なお未知の闇が広がる。昨日は直径45メートルの小惑星が
地球に最接近した。大型の小惑星や隕石は事前に軌道を把握できる。
だが小さな落下物は予測できず対処が難しいという。
歯がゆいばかりだ。
深遠なる宇宙の前に、いかに人間はちっぽけで非力な生命体であるか、
思い知らされる。被害者は気の毒だが、古人なら紛争や諍(いさか)い
の事の絶えない地球への警告、と受け止めるか。
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