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ほのぼのとした感じ

江戸の街は、徳川家康が幕府を開いてから急速に発展した。
天下太平の世が続いた江戸時代の中期には人口が100万人を超え、
当時のパリやロンドンをもしのぐ世界屈指の大都市へと成長した。

商人や職人の多くが住んでいたのは下町。建物が軒を連ね、
狭い場所に庶民がひしめき合うようにして暮らしていた。ともすれば、
いざこざが起こりがちだが、いつしか人間関係をうまく保つ暗黙の
ルールが生まれた。

狭い道路で前から人が来たら、互いに右肩を引き、体を斜めにして
擦れ違う。雨降りなら、双方が傘を外側に傾ける。相手に滴を
かけないための配慮。傘を壊す心配もない。前者は「肩引き」、
後者は「傘かしげ」と呼ばれる。

これら「江戸しぐさ」は、知らない者同士がうまくやっていくための
処世術。法律などで明文化された決まりではなく、店主が従業員に、
親が子へ語って教えた。(越川禮子著『商人道「江戸しぐさ」の
知恵袋』講談社)

先日の大雪の影響で、1人がようやく歩けるほどの狭い歩道に
雪が積もった。足元の悪さに気をとられながら歩いていると、
対向してきた年配の女性が立ち止まって道を空けてくれた。
軽く会釈すると、笑顔で会釈が返ってきた。擦れ違いざまの
一瞬の出来事だった。無言のやりとりながら、ほのぼのとした
余韻が心地よかった。

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