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古都鎌倉

年を重ね、あらためて文豪の作品を読み返すと、
昔は気づかなかった人生の機微に触れ、新鮮な驚きを
覚えることがある。夏目漱石の「こころ」もそのひとつだ。
愛と死を見つめたテーマはずっしりと重く、主人公の「先生」と
「私」が出会った鎌倉の描写には時の流れを感じる。

小説が書かれたのは大正初期、当時、東京から鎌倉へは、
<二、三日かけて金を工面して>出かける場所だったとある。
川端康成や小林秀雄など著名な作家がこの地に居を構えたのも、
大仏や八幡宮、武家屋敷などが点在する落ち着いたたたずまい
あってのことだろう。

東京とのほどよい距離感が思索の場としての魅力を高めたはずだ。
時代とともにその距離は縮まり、いまでは電車で小一時間だ。
週末には狭い市街地に観光客があふれ、猛烈な交通渋滞だ。
漱石が見たまち並みとは、別世界に違いない。

世界遺産登録を目指す鎌倉に審査機関が事実上の"辞退勧告"
を迫ったのは、ものすごい人混みに圧倒されたのが一因かもしれない。
景観を軽視した開発を厳しく指摘する声も少なくなかったようだ。
残念な結果ではあるが、景観こそが古都の顔である。

建物の色や形を含め、まち全体の統一感が保たれなければ、
訪れた人も興ざめする。歴史や文化が息づく美しいまちは
鎌倉だけでなく全国の都市に突き付けられた課題と受け止めたい。

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