- 2013年3月 8日 12:07
- M.N氏の岡目八目
歌舞伎界は悲しいことが続く。父勘三郎さんを亡くした
中村勘九郎さん、団十郎さんを失った市川海老蔵さんが
ともに今月東京で公演を行う。勘九郎さんは会見で
「父が切り開いた道を耕し、豊かにしたい」と語った。
海老蔵さんも思いは同じだろう。
歌舞伎俳優のように直接仕事を継ぐのではなくても、
親の存在は誰にとっても大きいものだ。その重みや大きさは、
亡くした後の方が強く感じるのではないだろうか。勘九郎さんも
海老蔵さんもむしろこれから、父の偉大さが身にしみるに違いない。
数学者の藤原正彦さんが、父新田次郎さんの未完小説を
引き継いだ小説「孤愁」を出版した。新田さんが1980年に急死した際、
新聞連載中だった。明治・大正期の日本に魅せられてた
ポルトガル人外交官が主人公だ。
藤原さんは父の無念を思い、すぐに書き継ぐことを決意したが、
着手したのは父の没年と同じ67歳からだった。「父の方が
良い作品になっただろうが、やって良かった。やっと重荷を
下ろせた気分」と心境を語っていられた。息子として一つの
区切りをつけた気持ちだったのだろう。
父を亡くした当日も勘九郎さんは舞台を務めた。その口上に
「親子は一世」という言葉があった。親子関係はこの世限りの
はかないものという仏教由来の言葉だそうだ。しかし、
夫婦と違い、親子はお互いに相手を選ぶことができない。
だからこそ、その絆は尊いのだ。私は、両親に何の孝行も
できなかった。春の彼岸に墓前に詫びに田舎にいこう。