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安全第一を願う

そこは目がくらむほどのきらびやかな世界だった。
操作盤に手をやる美しい女性に見とれていた少年は
「運賃はいくらなんだろう」とポケットの小銭をぎゅっと握り締めた。
熊本で初めて乗ったエレベーターだった。
亡き父が戦前に体験した話だ。よほど印象深かったのか
何度も聞かされた。先日はエレベーターの日だった。

1890年11月10日、東京浅草に完成した12階建て展望台
「凌雲閣」に日本初の電動式エレベーターが設置されたことにちなむ。
ただし、危険との理由ですぐ利用中止になってしまったという。
今年、近くに開業した東京スカイツリーには、第1展望台までの
350メートルを50秒で結ぶ国内最高速のエレベーターが設置された。
1世紀以上を経て到達した高度な技術に敬意を送りたいところだ。

かと思えば金沢市のホテルでは先日、清掃会社のパート従業員の
女性がエレベーターに乗ろうとして死亡するという痛ましい事故が起きた。
扉が開いたままかごが上昇し、かごと扉の上部に胴体をはさまれた
事故だ。時には心温まる会話を生むエレベーターなのに、それが突然
牙をむくのでは安心して乗れなくなる。

安全装置のない旧機種の改修が進んでいない背景があるという。
なぜ、安全への誓いが生かされていないのか。発足したばかりの
消費者安全調査委員会も、二度と悲惨な事故を起こさないために
徹底的な検証が必要だ。

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