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隠居

定年近しの齢(よわい)となり、江戸落語のご隠居みたいに
なりたいもんだ、とぼんやり思うことがある。
このご隠居、江戸時代の人びとにも憧れだったようだ。
 
歌川広重は26歳で同心の家督を譲って隠居。浮世絵師になった。
松尾芭蕉は36歳、伊能忠敬は49歳で隠居しそれから偉業を成した。
江戸文化に詳しい社会学者田中優子さんは、隠居とは、やりたいことが
できる人生の到来だったと、書いていられる。

しかし隠居するにも、先立つものがいるはず。田中さんによれば、
武士だときちんと勤め上げたあとに隠居料が支給される。
農民や町人は相続財産から1~3割の隠居料を確保し、
相続者と契約書も交わしていたそうだ。

内閣府の有識者検討会が高齢者=65歳以上の定義を見直そうと
言い出した。国連が65歳を高齢者とした1950年代、日本人の
平均寿命は男63歳、女67歳だったが、今は男79歳、女86歳だ。

年齢の固定観念が高齢者の意欲を削ぐ、と検討会は指摘する。
そのココロは、社会保障の基準「65歳以上」を引き上げ、定年延長で
働き続けられるようにする。国の借金は膨らむばかりであり、「支える」側に
回ってほしいとの要請なのだろう。

やれやれ楽隠居など望むべきもない。といって落胆するには及ばない。
広重や芭蕉を見習えば、人生リセットして自らの道を歩むのが隠居だ。

 

 

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