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恐怖

ブリヂストン美術館で野見山暁冶(ぎょうじ)展を見てきた。
野見山さんはもうすぐ91歳。鮮やかな色彩と自由奔放な筆遣いで、
自然の奥に潜む本質を描き出す推象画で知られる画家だ。

長野の無言館に展示されている戦没画学生の作品収集に
最初に取り組んだ人でもある。10代の作品から最新作まで紹介する
今回の回顧展には、特別出品として「ある歳月」と題する
巨大な作品が展示されていた。

今年6月に東日本大震災の被害地を訪れ、そのときのスケッチを
もとに描いたという作品だ。最近エッセー集「異郷の陽だまり」
によると、テレビで被災地の惨状を見ているうちに
「その中に立ちたい」と唐突に思ったそうだ。

「すべての景色はうつろうものだ。魔性を孕(はら)んいる
ものは美しい」といった自然観を持つ野見山さん。だが、
原発事故で人が消えた集落の静けさには恐怖を感じてこうつづる。

「人間はもう取り返しのつかないことに手を染めたのだという
思いがつのる。・・・さほど遠くない将来、地球は壊されてしまうと、
殆ど確信に近い恐怖をぼくは抱いている」。

作品「ある歳月」には、すさまじい勢いで押し寄せる
津波のような、ささくれた線も見て取れた。荒々しさの中の
不思議な静けさは何かへの祈りなのだろうか。福島で
野見山さんが抱いた地球が壊される恐怖」を現実のものには
したくないとつくづく願い祈った。

(M.N)

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