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記憶遺産

平泉の文化遺産、小笠原諸島の自然遺産に続いて、
記憶遺産に筑豊の炭坑の様子を描いた山本作兵衛さんの絵が
選ばれた。まさに世界遺産の3連発。震災以降、
暗雲立ち込める日本列島に世界遺産のニュースは、
なでしこジャパンとともに久々に明るい話題が振りまかれた。

その「記憶遺産」だが、大方の人にとって始めて耳にする
言葉だったのではないか。何しろ今回初めて日本のものが
選ばれたのだ。記憶遺産自体は1992年に設けられた制度で、
これまでにグーテンベルクの聖書やアンネの日記などが登録されている。

これに伍して選ばれた山本作品は半世紀自分が働いた
「ヤマの生活を子や孫に残したい」との一心から60歳代になって
絵筆をとられたようだ。素朴で力強い筆遣いと余白にびっしり
書き込まれた文章が、炭鉱の暮らしを鮮明に伝え、まさに
「遺産」にふさわしい。

山本作品とはかなり趣を異にするが、やはり鮮やかに
時代や世相を伝えるものだとあらためて感じたのが、絵はがきだ。
最近出版された「東京今昔旅の案内帖」(学研ビジュアル新書)は、
明治以降の彩色絵はがきや写真と現在の写真を並べて
名所の今昔をたどるという趣向だ。

例えば、「浅草十二階」として知られ関東大震災で崩壊した凌雲閣が
ひょうたん池越しにそびえる絵はがきは、江戸と近代が混在するさまを
伝えている。まさに身近な"記憶遺産"と思う。同じ著者による
大阪版も出ていて、変貌ぶりを机上で歴史散歩できる。


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