- 2011年5月29日 16:29
- M.N氏の岡目八目
歴史上の名画や彫刻、工芸品の中には損傷や破損のほか、
歳月を経て劣化し、当初の状態から大きく変わってしまった
ものが多い。それでも、どんな発色、彩色だったのだろうかと
想像してみると楽しい。
千葉市美術館で開催中の「ボストン美術館浮世絵名品展」は、
保存状態の良い作品を堪能できるのが魅力だ。
鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽の三大絵師を中心とした展示が、
鮮明な色彩美を伝えている。
植物性の塗料が多く使われていたため、色あせ、変色しやすい
当時の浮世絵版画だ。光や湿度の影響で、本来の色を残している作品は
ほとんどないという。特に紫色は変わりやすく、茶色っぽく
退色してしまうそうだ。
会場には、着物の模様も美しく鮮やかに、約200年以上前に
摺(す)られたとは思えない色合いの作品群が並んでいる。
明治期にアメリカに渡って封印されたことが、保存上幸いしたようだ。
清長、歌麿、写楽らが活躍した天明・寛政期(1781~1801年)は、
政権の安定と経済発展により町人文化が繁栄した時代。
気品をたたえた美人群像や迫力ある役者絵に囲まれ、江戸の活気と
華やいだ空間に誘われる。
描かれた季節感も豊かだ。団扇(うちわ)や扇子を手にした女たち、
川端での夕涼み、舟遊び・・・。
社会と経済が行き詰まり、市民生活の見直しさえ迫られた現代社会。
江戸風俗のしなやかさが輝かしいほどである。
(M.N)