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端正

端正という言葉が似合う人は最近ではめったにお目にかからぬが、
俳優やクイズ番組の司会者として親しまれた児玉清さんは、
その数少ない一人だった。

ぴんと伸びた背筋と同様、簡潔で歯切れのいい口調は
どこか潔さを感じさせた。NHK大河ドラマ「龍馬伝」では
坂本竜馬の父親役を演じられたが、端然として存在感があった。
映画やテレビで名を上げる一方、早くから大の読書家
としても聞こえた。

それも学生時代に専攻したドイツ文学から日本の時代小説、
現代小説、海外サスペンス物まで、東西の文学に通じられていた。
外国の作品はまず原作で読むのが楽しみ、と書いていられるのを
目にしたことがある。

そして優れたエッセイストでもあった児玉さんが16日、
胃がんで亡くなった。享年77.体調を崩し、クイズ番組の
収録を休んだと先日の新聞で知ったばかりだった。
各界の著名人が自ら執筆し、10年ほど前に出版された
「私の死亡記事」という本がある。

この中で執筆者の一人である児玉さんは、子どものころから
手当たり次第に本を読みあさってきたこととともに、
組織に属さず一人でいたことが僕の勲章と記されている。

今回の東日本大震災で露呈した国の危機管理のお粗末さにも
言及されている。「知恵と想像力と決断力のある大人のリーダーを
今こそ日本は求めている」(「文芸春秋」5月号)。
死を前の病床で書き上げた原稿だったのではないだろうか。

(M.N)

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