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愛犬

悪天候で15匹の犬を置き去りにせざるを得なかった現場に
1年ぶりに戻った。前方に2匹の影。人を見ても近づこうとしない。
置き去りを恨んでいるのか。そうも思ったが、覚えている犬の名前を
片っ端から呼んでみた。

「タロか」の声に、1匹のしっぽがわずかに動いた。
もう一度呼ぶと今度はしっぽを大きく振った。他の1匹はジロと分かる。
1959(昭和34)年1月、日本の南極観測隊が到着した昭和基地であった
カラフト犬、タロとジロの奇跡の生存劇だ。

以上のことは元隊員、北村泰一・九州大学名誉教授の回想だ。
極寒の地でそりを引くカラフト犬は観測隊には欠かせない存在で、
死んだ犬は丁重に水葬された。北村さんは力を込める。
「15匹は単なる犬ではない。南極を生き抜いた戦友だと」。

戦友、この言葉は東日本大震災のペットにも当てはまらないか。
岩手県宮古市の83歳の女性は、津波から逃れる途中、愛犬ハチとはぐれる。
深い喪失感。しかしハチの無事を知ると気分は違った。
「津波で財産が裸になっても、ハチがいてくれれば力が湧いてくる」と。

(M.N)

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