- 2010年11月12日 15:56
- M.N氏の岡目八目
人として、絶対にしてはいけないことがある。
例えば、他人の命を奪うことだ。その行いは「悪」として
断罪される。それでは悪事を犯した人はみんな悪人なのか。
やったことの責任は免れない。悔い改めるべきである。
だからといって、人のすべてを「悪」と切り捨てられるだろうか。
森鴎外の「高瀬舟」は、弟殺害の罪で島流しにされる町人の話だ。
重病に倒れ、兄に迷惑をかけるのを苦にした弟が命を絶とうとする。
兄は弟の懇願に負けて手を貸してしまう。
護送の役人は「それが罪であろうか」と考え込む。
「善人が極楽浄土に迎えられるのなら、悪人も救われて当然だ」。
高僧、親鸞は説いた。正直に生きて暮らせない当時の世相、
人は生きるために人を裏切り、悪事にも手を染めた。
誰もが地獄に落ちると信じた。
親鸞はそうした庶民にこそ光をと考えた。
吉田修一氏の「悪人」は殺人を犯して逃げる若者を描いた
現代小説だ。犯した罪は償わねばならない。
ただ、罪は犯さなくてもあくどい心の持ち主もいる。
本当に悪いのは誰か。混とんとした今の時代を
浮かび上がらせる。
映画化した作品でヒロインを演じた深津絵里さんが、
モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。
日本人では2人目の快挙だった。
逃げる若者を信じて一途の寄り添う女性の姿が、
寄る辺なき今の時代を映し出したように思えた。
久しぶりに観た映画で心打たれた。
(M.N)