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森繁久弥さんありがとう

 軽妙でありながら、温かく、それでいて哀歓のにじむ演技。
間を置いた独特の語り口にも味わいがあった。映画、舞台、テレビ、ラジオなどを通じ、
戦後の芸能界をけん引し続けた俳優の森繁久弥さんが亡くなった。

 戦後、旧満州から帰国し映画界入り。
「夫婦善哉」や「社長」 「駅前」シリーズなどで人気を博し、テレビやラジオ、舞台でも活躍。さらには歌詞曲を手掛けた「知床旅情」が大ヒットするなど芸能界のあらゆる分野で名をはせた。

 森繁さんの印象は世代によって異なる。
自ら作詞作曲した「知床旅情」を歌う森繁さん、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の主人公テヴィエを演じる森繁さんは、大正、昭和、平成、の激動の時代を生き、大衆芸能の分野で国民を楽しませてくれた大きな人だった。

 心温まるエピソードの一つに童謡の「七つの子」がある。
歌詞中に「丸い眼をしたいい子だよ」と出てくるが、歌うその場に盲目の子がいることに気付き、その歌詞を口にするのをためらった。機転をきかせて「丸い顔したいい子だよ」と言い換え歌った。

 絵を描き、詩を作り、エッセーも書くというマルチな才を発揮された。
詩の朗唱は他の追随を許さず、舞台の瞬間に生きる役者の姿を燃焼芸術と呼んだ。
永遠の眠りについても灯した火は消えない。96歳の生涯は見事な幕引きというほかない。

                                                      (M.N)

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