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心あたたまる商店街

近ごろ、こんなにうれしいせりふはめったに聞けるもんじゃない。
街の時計屋さんの一言にしびれた。
それも初めて入った店でのことだ。

愛用していた腕時計が止まってしまった。
電池を交換してもらおうと商店街を歩き
看板を見つけて飛び込んだ。調べてもらうと
内部のムーブメント(駆動装置)が壊れているため
電池を換えても動かないという。

どうせ安物。あきらめて帰ろうとしたとき
主人がさらりと言った。
「もし思い出の時計ならば、外側はそのままに、
ムーブメントだけ取り換えてさしあげますが・・・」。
あくまで控えめな口調は変わらない。

だれの時計でも、その人だけの固有の時を刻んでいる。
その中には、いつまでも大切にしておきたい時間もある。
主人の言葉は、客とともに人生を歩んできた時計に対する
心憎い配慮だった。

総務省の調査では、自主営業の数が、
今年54年ぶりに500万を割る見通しだという。
売り上げ不振や後継者難に悩む卸売り・小売業の減少幅が
最も大きい。「顔」でもあった商店街は危機的な状態だ。

しかし、この店のような接遇に
元気を出すヒントがあるのではないか。
「内部のムーブメント」をもう一度見直してほしい。コチコチと
商店街の歴史を刻んできた時計が止まる姿は見たくない。 

(M.N)

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